2026年度(令和8年度)診療報酬改定は、ここ10年以上の中でも性格がはっきりした改定です。
「なんとなく点数が動く」のではなく、医療提供体制の構造そのものを修正する意思が、数字と文章の両面から読み取れます。
2026年1月に開催された 中央社会保険医療協議会(中医協)では、
- 改定内容の設計図となる「議論の整理(項目整理)」
- 本体改定率 プラス3.09%
が示され、診療報酬改定は「方向性の議論」から「具体化フェーズ」へと移行しました。
本記事では、
改定率の内訳・中医協の項目整理・動画解説で示された政策意図をすべて統合し、
2026年度診療報酬改定の「全体像」を立体的に解説します。
1. 今回の診療報酬改定は何が違うのか
まず押さえておきたいのは、2026年度改定が「帳尻合わせ型の改定ではない」という点です。
これまでの改定では、
- 本体を上げる
- 薬価・材料で下げる
- トータルで±0付近に収める
という構造が続いてきました。
しかし今回は違います。
- 本体:+3.09%
- 薬価・材料:▲0.87%
- ネット改定率:+2.22%
診療報酬全体として明確にプラスになる改定です。
これは偶然ではなく、政策的な判断です。
2. 改定率3.09%の「正しい読み方」
2-1. なぜ「2年度平均」なのか
改定率3.09%は、1年分の数字ではありません。
- 2026年度:+2.41%
- 2027年度:+3.77%
を平均したものです。
これはつまり、
「1年だけ頑張る」のではなく
「物価・賃金が上がり続ける前提で、段階的に引き上げる」
というメッセージです。
医療費を“一気に上げる”のではなく、
将来の予算編成まで含めて方向性を示す、非常に珍しい設計です。
3. 改定率の中身|3.09%はどこに使われるのか
3-1. 最大の柱は「賃上げ対応(+1.70%)」
今回の改定で最も大きな比重を占めるのが賃上げです。
注目すべきは、「誰の賃上げを重視しているか」が明確な点です。
- 医療全体:平均3.2%の賃上げを目標
- 看護補助者・事務職員など:最大5.7%
これは単なる人件費増ではありません。
「医療が他産業との人材競争に負けている」
「加算を作っても人が残らない」
という反省を踏まえた設計です。
特に、
- 看護補助者
- 医師事務作業補助者
- 事務職員
といったこれまで賃上げの対象外になりがちだった職種が、
明確に政策対象として位置づけられています。
3-2. 物価高騰対応(+0.76%)は“病院重視”
電気代、医療材料費、給食費、医療機器…。
病院経営を直撃している物価高に対し、物価対応分が確保されました。
ここで重要なのは配分の仕方です。
- 病院:厚く配分
- 診療所:限定的
- 保険薬局:ほぼゼロ
これは「公平」ではなく「戦略」です。
特に、
- 高度医療を担う病院
- 大学病院・急性期病院
については、
医療機器・先端技術の価格上昇を理由に特例的な評価が示されています。
3-3. 異例の「経営悪化への緊急対応」
今回の改定で、最も異例なのがこの部分です。
- 病院向け:+0.40%
- 診療所向け:ほぼ対象外
これは「過去に遡って補填」するものではありません。
「赤字が深刻化している病院に、今後の診療報酬で手当てする」
という政治的判断です。
補正予算 → 診療報酬
という二段構えで、
病院の“延命”ではなく“立て直し”を狙っている点が重要です。
3-4. マイナス改定は▲0.15%に抑制
一方、効率化・適正化として▲0.15%のマイナスも入ります。
内容は、
- ジェネリック普及を踏まえた調整
- 在宅医療・訪問看護の適正化
- 長期処方・リフィル処方の推進
ただしここで重要なのは、
前回改定のような「内科・外来への急ブレーキ」はかけていない
という点です。
生活習慣病管理料や外来管理加算についても、
「一気に廃止できる規模ではない」ことが、数字上も裏付けられています。
4. 中医協「項目整理」が示す4つの大方針
① 物価・賃金・人手不足への対応
→ 今回の改定の中核
② 2040年を見据えた医療機能の分化・連携
→ 「どの病棟か」ではなく「何を担っているか」
③ 安心・安全で質の高い医療
→ 身体拘束、医療安全、アウトカム評価
④ 効率化・適正化による制度の持続性
→ OTC類似薬、後発医薬品、費用対効果
これらは独立したテーマではなく、
すべてが「病院機能の再設計」に収束しています。
5. 選定療養の拡大が意味するもの
今回の改定では、選定療養の考え方も一段進みます。
象徴的なのが、
- 近視進行抑制薬(アトロピン硫酸塩水和物)
です。
- 薬剤費:自己負担
- 診察・検査:保険診療
これは、
「すべて保険 or すべて自費」という二択からの脱却
を意味します。
今後は、
- オンライン診療システム利用料
- 予約キャンセル料
- 多言語対応費用
など、医療とサービスの線引きがより明確になります。
6. 今後のスケジュールと“本当の山場”
- 1月下旬:短冊(個別改定項目)
- 2月上旬:答申
- 3月:通知・算定要件
- 6月:施行
本当の勝負は、
「点数」よりも「要件」です。
- どの病院が取れるのか
- 実務が回る設計か
- 現場に過度な負担がないか
ここで評価が分かれます。
まとめ|2026年度診療報酬改定は「病院重視の構造改革」
2026年度診療報酬改定は、
- 明確なプラス改定
- 病院、とくに地域医療を担う病院への集中配分
- 賃上げ・物価高への現実的対応
を特徴とする、構造改革型の改定です。
一方で、
- 診療所・外来は“守られたが厳しい”
- 要件設計次第で明暗が分かれる
という側面もあります。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
